ワイン手帖

ワインショップ「Shopgirl_NY152 」 エッセイ&ワインこぼれ話

ともいきの木

 

ボクがあの子に出会ったのは、彼女がまだ5歳の頃だった。

 

(まあ、正確に言えば、存在は産まれた時から知ってはいたし、大人に連れられてヨチヨチ歩きをするのを見かけてはいたのだが。はっきりとその存在を認識するようになったのは5歳位か、という意味)
 他の子より小さくて、身体も弱かった彼女は、幼稚園も恐らく半分位しか通ってはいなかっただろう。


 「また熱がでたんですって」

 

とか、


 「相変わらず咳がひどいらしいわ」


と、遠くの方で先生方が話しているを風の囁きを流すように耳にしては、今日もダメか、と悲しくなったものだった。だから彼女が、小さなお弁当箱の入った通園バッグを肩にかけたまま、


 「オッハヨ~」


と声をかけてくれた日は、目の前の霧がパッと晴れて、木々の隙間から青空が見えるようだったし、園児の短い幼稚園生活を終えて、今度は空っぽになったお弁当箱の、中に入った小さな箸をカチャカチャ鳴らしながら


 「またね」


と言って、ボクの前を駆けていくさまを眺めることができた日は、日だまりの中でそよそよ吹かれた柳のように、気持ちが良かった。

  そう言えば、『君の名は。』というアニメがあって、作中で主人公が妹と神楽を舞うシーンがあるらしいのだが、彼女も園児の時に神楽を舞って奉納してくれたことがある。


 まだ幼い子供の身につける装束だから、正式なあこめではなかったが、それでも千早と緋袴という、略装束とは言えかなり立派に見えるもので、恐らく、子供が身につけても重たくないものとして作られたのだろう。
 額には花簪の銀色の前飾りがゆらゆら動いて、綺麗に薄化粧を施して貰った幼顔は少し大人びて見えた。ただでさえ小さな顔の3、4倍はありそうな大きな扇で、すっぽり顔を隠して、


 「みてみて」


と言って駆け寄ってきてくれた。その姿は誇らしげで、満面の笑みがこぼれていて、扇舞に使う金色の艶やかな扇に付けられた六色の長い紐が余程気に入ったのか、ボクの前でふりふりさせてはひとりでころころと笑っていた。


 いつもより大きく見えたのは、頭の上にしっかりと乗せられた、花簪のせいだったかもしれない。何もかもが、非日常の中で、ゆっくりと溶けていく、時のかたまりだった。それはほんのついこの前のような気がするのに、あれからもう半世紀以上もたったのかと思うと、人間の寿命のなんと短いことだろう。

 


 ボクのいるこの場所は、源頼義が建てた神社の一画の敷地内で、時の流れはしばしば、世の常とは異なる。ボクとあの子の住処とは、人には見えない通路で繋がっていて、ボクの処へ来ようと思えばいつでも来れるのだが、まだ一度もその通路は使われたことがない。学校に上がり、園児バッグがランドセルに変わっても、いつも彼女は正規のルートでやって来た。
大人になってからは、お賽銭という金品付きで。小銭入れの中には沢山の五円玉が仕込まれていて、それをじゃらっと景気よく賽銭箱に開けるさまは、幼い時にカバンをカタカタ言わせて走ってきた頃と、何も変わってはいないのかもしれない。
 


 ここは、江戸時代には家康さんから寄進された社領があって敷地は6万坪だったのに、ご維新で3万5千坪も押収されたので、今ではだいぶ狭くなってしまった。彼女の好きな、緯度経度で表現すると、ちょうど東京のど真ん中に位置するらしい。狭い狭い、と他の住人たちは騒めくが、それでもまだまだ、東京では三番目に広いらしいので、文句を言ってはバチが当たる。


 驚いて欲しいのは、気が付いたら犬櫻がボクに寄生していて、いつの間にやらひとつになってしまったことだ。普通は寄生されると生きてはいけないものなのだが、ボクもまた護られている身なので、随分と長生きできたものだ。


 ボクの生きてきた年月に比べたら、神楽を舞ったあの子の寿命など、ほんの一瞬に過ぎない。だが、それでも、その一瞬の記憶は色褪せることなくこの体内に残っていく。ボクが朽ち果てるまで、あの子の好きだった犬櫻と一緒に。それはそれは優しい時間だ。

 人はボクのことを榧と呼ぶ。

 

 

 

 


 

今日のお薦めワイン

 

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A to Z ワインワークス


 

A to Z ワインワークス / ロゼ 2015年

https://nuimama-ny152.shop/?pid=127102152

 

生産者 : A to Z ワインワークス  
地 域 : アメリカ > オレゴン州
品 種 : サンジョヴェーゼ100%

 今飲みしても美味しいし、お好みで、10年間位までは熟成させることもできる優れもののロゼ。寝かせると、酸が溶け込み、エレガントで美味な超旨み系になっていくので、どちらもお薦めです。
 2015年ヴィンテージはこれで最後!もうインポーターにも残っていません。(全部買い占めました)

 

 

 

 

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