ワイン手帖

ワインショップ「Shopgirl_NY152 」 エッセイ&ワインこぼれ話

癒しのワイン

ドイツのミッテルライン地方に、癒しのひとくちを造る醸造家がいる。その名はラッツェンベルガーさん。私の大好きな生産者のひとり。 

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ヨハン・ラッツェンベルガーさん

 

初めて彼を見かけたのは、とある船上パーティーの時のこと。

 

その時は、ご一緒にいらしたジャンブッシャーさんが、私を勢いよくハグしていた真っ最中だったので、彼は後ろでにこにこしながら黙って私たちの会話を聞いていた。当時、本当に見た目が若かった私は、ジャンブッシャーさんにはオコチャマにしか見えなかったらしく、

 「ワイン飲める年なの?」

と言ってるよ、と通訳に入ってくれたYさんが笑いながら訳してくれた。確か

 「45です」

と答えた記憶がある。それは詐欺だね、と大きな声で笑いながらジャンブッシャーさんはまたハグ。

もの静かなラッツェンベルガーさんは、ドイツ人なのに非常にラテンなジャンブッシャーさんとは対照的で、私たちがふざけていても、グラスを片手にただ微笑んでいるだけで、一言も口を挟んではこなかった。今よりもっと痩せていらしたので、イメージとしては、“あしながおじさん“のジャーヴィー坊ちゃんが大人になって、パーティに出席したまではよかったけれど、少し時間を持て余している図、という雰囲気だった。私は横目でちらちら気にしながら、その時は会釈だけで失礼した。

 

 それから1年位あとだろうか。大阪でセミナーがあるので手伝って、という声をかけて頂き、通訳以外はなんでもやります、という小間使いとして、再びラッツェンベルガーさんにお目にかかることができた。あの時の2泊3日の出張は、仕事とは言え毎日が非常に濃くて楽しくて、かけがえのない時間を過ごすことができたのだが、その時のセミナー当日の昼のこと。

 

 セミナー組は早めに食べて、という主催者の指示に従い、私はラッツェンベルガーさんとご一緒にあたふたランチを取っていた。すると彼が私を見てくすくす笑っていらっしゃるので、何かな?と思いきや、
「主食ばかり食べるのだね」
「??主食、ばかり??」
(おにぎり、ポテトサラダ、ポテトコロッケ、ポテトサンド、ちゃんとおかず食べてるけど?)


 いやいや、実はドイツの主食というのは米派と芋派に分かれていて、ラッツェンベルガー家は芋派。じゃが芋が大好きな私は、セミナーのお手伝いに用意されていたコンビニおかずの、ポテトと名の付くもの全て、ポテトコロッケにポテトサラダ、ポテトサンドになぜかポテトチップスまでついて、おまけにおにぎりを頬張っていたので、彼にとっては主食しか食べていないではないか!ということになったらしい。確かにそれは笑えるかも、、。


 あの時の優しい声が本当に印象的、早い話、素敵だった訳ですね。私より年下の筈なのに、お兄さんが妹に語りかけているみたいで、彼の造ったワインが何故こんなに癒されるのか、あの瞬間にすとんと腑に落ちた!

 いつ飲んでも、何を飲んでも癒される訳が、わかったような気がした。ワインには、絶対、生産者の人柄が出る、と初めて実感した、と言うか、体現した、と言うか、理屈ではなく、感性の方で、理解できたのである。

 その時から、「ミネラル」というものに興味を持つようになった。彼のワインから感じられる凝縮した何かの成分、これは何?と質問した答えがずばり「ミネラル」だったのだ。土壌からくるミネラル。ミネラルという味は実はないのだが、その話はまた追々。

 

あれから私は、ワインというよりミネラルの旅に出た、と言っても過言ではないかもしれない。私が感じた凝縮感の塊を人に伝えていくのが如何に難しいか、、、、

未だに格闘している。これは永遠に続くゲームのようなもので、100%伝えきってクリア、終了!ということなど一生ないだろう。だから、奥が深いのだが。ただ、美味しいでは駄目なのか?という質問をよく受ける。そう!飲めばわかる。飲んでくれた方には「美味しいよねぇ~」でよい。問題は、まだ、飲んだことのない方へのメッセージなのだ。

 

      まだ知らない人へ、、、届け、、、届け、、、届きますように。

 

 

 

今日のお薦めのワイン

 

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バハラッハー・ポステン・リースリング・シュペートレーゼ・ファインヘルプ 2006年

 

ラッツェンベルガー / バハラッハー・ポステン・リースリング・シュペートレーゼ・ファインヘルプ

 https://nuimama-ny152.shop/?pid=139645152

 

生産者 : ラッツェンベルガー

地 域 : ドイツ > ミッテルライン地方

品 種 : リースリング

 

最大斜度60度以上、という絶壁特級畑を所有しているラッツェンベルガー醸造所。ライン河くだりの船からも見える風光明媚なバハラッハ村。標高の高いこの地域はとても冷涼な為、日当たりの良い南向けの急斜面でしか葡萄が造れない。ゆえに生産量が非常に少なく、限られた流通量。その中でもひときわ高品質なワインで知られているのが彼の醸造所で、最も得意としているのがリースリングという白葡萄。

 

リースリングは非常に果実味に溢れていて、まろやかだが決して重くはない、エレガントさを持っているのが特徴。2006年なので、既に10年以上も時を経ているのだが、そんなに熟成したとは思えないほど、まだフレッシュな味わいを持っている。綺麗な酸味があるので、ふくやかな果実味との絶妙なハーモニーが秀逸な1本。ただただ美味しい!を味わって頂ければ、嬉しいです。

 

今、気が付いた!2006年は彼のセミナーのお手伝いをした記念すべき年かも??

 

 

 

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