ワイン手帖

ワインショップ「Shopgirl_NY152 」 エッセイ&ワインこぼれ話

ボクは神さまのお遣い

 

 以前、「ともいきの木」で、榧があの子の小さい時を話していたから、ではボクも、とふと思いついた。

 

ボクがあの神社にいたのはあの子が子供のうちだけで、榧に比べるとボクの寿命も人間のそれに近く、いや、もっと短いので、ボクがあの子のことを覚えているのは、些細なことだけなのだが。

 

ボクは、何故か神社に貰われてきた子だった。

 

 

奈良にはボクの身内がわんさかいる。しかもあちらは放し飼いで、観光客という見知らぬ者から「鹿煎餅」なるものを貰えるらしい。それはそれで広いところを闊歩できるから、少し羨ましい気持ちもなくはなかったけれど、ボクはボクだけの専用の囲いがあって、食べ物は毎日貰えるし、テレビなんかに映らない分、静かでのんびり過ごすことができたので、近所の子供たちの差し入れを考えると、まあまあ、これでもいいか、と思える生活をしていた。

 

誰かと食べ物を奪い合うとか、オス同士の喧騒とか、おなごの気を引く努力をしなくてはいけない、というのは、なかなかに骨が折れる作業で、ボクのように根がのほほんとして野生に向かない野生は、神さまのそばで、気楽に過ごせることは決して悪い話ではなかった。しかも、神さま独り占めだしね。

囲いの中で可愛そうね、という人間の声も聞こえてはいたけれど、守られているというのはそんなに悪いことなのか?と思ってやり過ごしていた。

 

そんなボクの楽しみは、近所の子供たちの差し入れだ。

その中に、それはそれはボクのことが好きらしい女の子がいて、くる度に、白い四角い物体を持ってきてくれた。背中に背負った真っ赤な背負子の蓋をかぱっと開けて、何かに包まれたその物体が出てくるのを合図に、ボクはいそいそと寄っていった。

 

囲いは二重になっていて、ボク側は金網の柵、その外側に丸木で造られた高さ1m位の、よく池の周りにある奴ね、小さかったその子はやって来るとその物体を片手に丸木の柵によじ登ると、必ず

「もってきたよ~~」

と言って、金網の隙間から押し込めてくれた。

 

彼女が粛々と通っている寺子屋らしいところは小学校と言い、真っ赤な背負子はランドセル、白い四角い物体は、食パンと言うのだと、榧が教えてくれた。どうやら、昼には、彼女たち人間も、給食なる餌が出されるらしい。なーんだ、同じではないか。給食には、その食パンなるものが2枚も出されるらしいのだが、身体の小さいその子はとても食べきれず、半分残してきては、ボクにくれていたのだ。先生なる咎めやに見つからないように、その真っ赤な背負子に隠してくるのはなかなか大変らしく、

「はんぶん、しかないよー」

という日もあった。

 

たま~にない日もあった。どうやら、その日は “アゲパン” なるものがあてがわれるらしく、アゲパンはひとつしか出されないので、ボクの分はない。そんな日は、柵にはよじ登らずに、顔だけ見せると直ぐに帰っていく。そして、暫くすると、何やら別の物体を運んできてくれた。

 

食パンほど真っ白ではなく、ぼろぼろと柔らくて、食べにくいが、実にうまくて、ボクはその方がより楽しみだった。

「とうふやさんに行ってきたよー」

と彼女は言った。そう、食べにくいが、旨いその物体は、『おから』と言うらしい。

 

ボクは長い舌を金網の間から伸ばして、そのおからとやらにありついた。おからの時は彼女は丸木の柵を乗り越えて金網ぎりぎりまでやってきて、ボクの舌が取りやすいように器用に隙間から入れてくれた。その香りはなんとなく木々にこぼれるお日様の匂いがして、雨でなくてよかった、と思ったものだ。雨の日は流石に丸木によじ登れないから、ボクへの差し入れは、なかなかに大変みたいだったからだ。

 

小さかったあの子が段々と大きくなるにつれ、ボクへの差し入れは少なくなっていった。

学校の帰りが遅くなるにつれ、神社の境内は真っ暗で物騒だからという理由で、表の車通りから帰ることが増えたからだ。

今度は新しい別の小さい子が、また、差し入れをくれるようになったけど、おからを豆腐やさんに貰いに行ってくれたのは彼女だけだったので、ボクは、初めて恋しいな、という気持ちがわかった気がした。

 

別れは突然にやってくる。

 

気が付いたら、ボクの肉体はもう囲いの中にはなく、榧のそばにいた。

 

ボクは神さまのお遣いだから、人間に恋をしてはいけないらしい。だから神さまに呼ばれてしまった。

榧のように、あの子を見守ってやらないといけないんだ。

 

 

 

 

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今日のお薦めのワイン

ダーレンベルグ / ドライダム・リースリング 2010年

https://nuimama-ny152.shop/?pid=135272203 

 

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ダーレンベルグ / ドライダム・リースリング 2010年

 

※現行ヴィンテージではないので、いよいよカウントダウン開始です!


生産者 : ダーレンベルグ

地 域 : オーストラリア > 南豪州マクラーレン・ヴェイル&アデレードヒル

品 種 : リースリング100%


 ダーレンベルグは、アデレードの南約40kmに位置する温暖なマクラレン・ヴェイルに1912年に設立されたワイナリー。現在は4代目のチェスター・オズボーンがワインメーカーを務め、品種の特性を生かしたデイリーワインから世界的プレミアム・シラーズまでをも造っている。

 クラシックなマクラーレン・ヴェイルのリースリングらしく、若いうちは、レモン、ライムの果実に白い花のアロマが香り、シャーベットのような口当たりとともにしっかりしたミネラルが感じられ、適度な酸と甘みが調和し、メリハリのある味わいだったのが、ゆっくりと熟成し始め、今では全ての要素がじわっと混ざり合い、奥行きの深さを感じることができる。
 ワイン名の “Dry Dam”(=干上がったダム)は、ダーレンベルグの近隣に造られたダムにちなんでつけられたもの。


 寝た子は美味しい!とは どういう意味なのか? 知りたくないですか??
 白ワインの中で、唯一と言ってもよい熟成できる葡萄、リースリングは、寝かせると、酸味と甘みがひとつに溶け合って、まったりワンランク上の美味しさに化けるのです。若い時はバラバラに感じた要素が、時間と共に変化する。まさにハーモニー。
 実はまだまだ寝かせられます。 この価格で寝かせられるのは、ちょっと嬉しいですね。 但し、温度には気をつけてくださいね。

 

 

 

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